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2026.03.26
「最近、散歩に行きたがらなくなった」「階段の前で立ち止まるようになった」「朝起きたときの動き出しが、どことなく遅い」そんな愛犬の変化に気づいて「年齢のせいかな」と感じたことはありませんか。
もちろん、疲れや気分によって一時的に動きが鈍くなることもあります。けれど、同じような様子が何日も続き、少しずつ動きが変わってきていると感じるときは、変形性関節症(いわゆる関節の“すり減り”)が関係している可能性があります。
この病気は、残念ながら元の関節に完全に戻すことは難しい病気です。ただし、痛みを上手にコントロールしながら付き合っていくことで、生活のしやすさや「動ける時間」を保つことは十分に目指せます。
大切なのは「歩けなくなってから」ではなく、違和感が出始めた段階から、その子に合った疼痛管理(痛みの管理)を始めることです。
この記事では、犬の変形性関節症の基礎知識から、段階別の内科治療、そしてご家庭でできるケアまでを、獣医師の視点でわかりやすく解説します。
■目次
1.犬の変形性関節症とは
2.「関節炎」との違い
3.変形性関節症の主な原因
4.変形性関節症で見られる症状
5.治療の基本方針|変形性関節症は「内科治療」と疼痛管理が中心
6.レントゲンよりも「生活の様子」が大事
7.段階別の治療とケア
8.飼い主様にできるホームケアと観察のポイント
9.まとめ
変形性関節症は、関節のクッション役を担っている軟骨が少しずつすり減り、時間をかけて関節内の炎症や骨の変化が進んでいく病気です。
本来、関節は骨と骨の間にある軟骨が衝撃を和らげ、動きをなめらかにしています。ところが、この軟骨が傷んでくると、関節内で摩擦が起こりやすくなり、痛みや炎症が続くようになります。
進行すると、骨の形が少しずつ変化したり、関節の周囲に骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨の出っ張りができたりすることもあり、これが動かしづらさや慢性的な痛みにつながります。
「関節炎」は、関節の中で炎症が起きて痛みや腫れが出ている“状態”を指す言葉です。原因は、ケガや感染、免疫の異常などさまざまで、治療によって炎症が落ち着けば症状が改善するケースもあります。
一方、変形性関節症は、炎症だけでなく、軟骨のすり減りや骨の変化(骨の出っ張りなど)が少しずつ積み重なっていく病気です。炎症が一時的に落ち着く時期があっても、関節の構造変化そのものが自然に元通りになるわけではありません。
そのため、変形性関節症では「痛みが出たらその都度対処する」だけでなく、痛みの管理と生活の工夫を続けながら、長い目で付き合うことが大切になります。
変形性関節症は、ひとつの原因だけで起こることは少なく、いくつかの要因が重なって関節に負担がかかるケースが多く見られます。
代表的な要因としては、
・加齢による軟骨の弱り
・体重増加による関節への負担
・体のつくり(股関節形成不全、膝蓋骨脱臼など)
・過去の外傷や手術の影響
などが挙げられます。
変形性関節症はゆっくり進むことが多く、初期は「はっきりした症状」として目立ちにくいのが特徴です。けれど実際には、次のような“ささいな変化”として現れることがあります。
・片足をかばうように歩く
・散歩を嫌がる、遊びに興味を示さなくなる
・寝起きや座った状態から立つのに時間がかかる
・階段や段差を避けるようになる
・関節まわりを触られるのを嫌がる
・散歩の後や遊んだ後に動きが悪くなる
こうした状態を放置すると、痛みをかばって動かなくなり、筋力が落ち、さらに動きづらくなるという悪循環に入りやすくなります。
その結果、体重が増えて関節への負担が増すケースも少なくありません。
変形性関節症では、すり減った軟骨を完全に元通りにすることは難しい一方で、適切な治療で痛みを抑え、動ける状態を保つことは十分に可能です。
治療の目的は大きく3つあります。
1. 痛みを和らげ、日常生活を楽にすること
2. 動ける状態を保ち、筋力低下を防ぐこと
3. 関節への負担や炎症を減らし、進行をできるだけゆるやかにすること
変形性関節症ではレントゲン検査が診断に役立ちます。ただし、画像で見える変化の程度と、痛みの強さは必ずしも一致しません。
レントゲン上は軽度に見えても強い痛みを感じている子もいれば、変形が進んでいても比較的元気に過ごしている子もいます。
そのため治療方針を考える際には、実際の歩き方、立ち上がり、段差の様子、散歩中の反応、表情など、日常の変化をとても大切にします。
変形性関節症は、その子の状態によって必要なケアが少しずつ異なります。症状の程度に合わせて、できることを無理なく積み重ねていくことが大切です。
初期のうちから関節への負担を減らしておくことで、進行をゆるやかにできる可能性があります。ここでの基本は「関節にかかる負担を減らしつつ、動ける状態を保つこと」です。
その土台になるのが体重管理です。小型犬でもわずかな体重増加が関節に大きな負担になるため、適正体重に近づけるだけで動きが楽そうになる子もいます。あわせて運動は「安静にさせる」よりも「無理のない範囲で続ける」ことが大切です。散歩は短めの距離でゆっくり、急なダッシュやジャンプは避けるなど、関節に負担をかけすぎない形に調整していきます。
さらに、日常の環境を整えることも効果的です。滑りにくい床にする、段差を減らす、体に合った寝床を用意するなどの工夫は、関節への負担を毎日少しずつ減らしてくれます。
こうした対策をしても「動きの低下がはっきりしている」「痛そうな様子が増えてきた」という場合は、早い段階から痛み止めを検討することもあります。
中等度では、痛みが生活に影響しやすくなるため「痛みのコントロールを安定させること」と「薬を安全に続けること」が中心になります。
痛み止めは継続しながら、効き方や体への影響を定期的に確認し、必要に応じて薬の種類や使い方を見直します。長期的に付き合う病気だからこそ、“今の状態に合った処方”に調整していくことが大切です。
そのうえで、犬の状態によっては注射薬、リハビリ、水中運動などが選択肢になることもあります。どれも「合う・合わない」があるため、症状の出方や生活スタイルを踏まえて、負担の少ない組み合わせを一緒に考えていきます。
重度になると、痛みを完全になくすことが難しいケースもあります。その場合は「痛みをできるだけ減らし、その子らしく過ごせる時間を守ること」が治療の目標になります。
薬は反応を見ながら慎重に調整しつつ、生活環境の工夫がより重要になります。たとえば、サポートハーネスで立ち上がりや移動を助ける、体圧を分散する寝具で休む時間の負担を減らす、段差を解消して転倒リスクを減らす、といった対策が大きな助けになります。日々の「つらい動き」を減らすことが、痛みの悪化を防ぎ、生活の安定につながります。
変形性関節症は、日々の様子を見ながら治療を調整していく病気です。難しいチェックは必要ありません。
立ち上がり方、歩くスピード、段差の嫌がり方などを「以前と比べてどうか」という視点で見てあげてください。
「触られるのを嫌がるようになった」「散歩の途中で帰りたがる」など、行動の変化も大切なサインです。
気になることがあれば、早めに相談することで、負担を増やさずに対応できることがあります。
犬の変形性関節症は、内科治療と疼痛管理が中心となる病気です。完治が難しい一方で、適切な治療とケアによって、痛みを抑えながら生活の質を守ることは十分に可能です。
大切なのは「年齢のせい」と片づけず、早めに気づいて、早めに整えていくことです。気になる変化があれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。
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