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2026.03.05
「散歩中、愛犬が突然後ろ足を浮かせて歩き始めた」「遊んでいるときに急にキャンと鳴き、その後片足をかばうようになった」こうした様子は、前十字靭帯断裂の初期に見られることがあり、動物病院でもご相談の多い症状のひとつです。
前十字靭帯断裂は、犬の整形外科疾患の中でも比較的よく見られる病気です。膝の安定性を保つ重要な靭帯が切れることで、強い痛みや歩行がしづらくなります。診断を受けた飼い主様からは「手術しかないの?」「どんな手術があるの?」「うちの子に合った治療法は?」といったご質問をよくいただきます。
そこで今回は、前十字靭帯断裂とはどんな病気なのか、治療にはどんな選択肢があるのか、そしてTPLOとラテラルスーチャー法の違いを、できるだけわかりやすく解説します。
■目次
1.「前十字靭帯断裂」とは?
2.こんな症状は要注意
3.放置すると「反対側」も傷めやすくなります
4.診断の流れと、治療方針を決めるポイント
5.前十字靭帯断裂の主な治療選択肢
6.手術の前に確認しておくこと
7.術後の過ごし方(ここがとても重要です)
8.合併症やリスクについても知っておきましょう
9.まとめ
前十字靭帯は、膝関節の中で大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)をつなぎ、前後のズレやねじれ(回旋)を防いで膝を安定させる、とても重要な靭帯です。
この靭帯が切れてしまうと膝が不安定になり、歩くたびに関節の中で骨同士がずれやすくなります。その結果、強い痛みや跛行(びっこ)が出たり、時間の経過とともに関節炎(変形性関節症)が進行したりします。
前十字靭帯断裂は、小型犬から大型犬まで幅広い犬種で見られます。加齢によって靭帯が弱くなることに加え、肥満や運動習慣によって膝に負担がかかりやすい場合や、体のつくり(遺伝的な要因)によっても発症リスクが高くなると考えられています。
特に中高齢の犬では、大きなケガがなくても靭帯が少しずつ弱く(変性し)なり、ある日を境に突然切れてしまうケースも少なくありません。
また、前十字靭帯断裂では、膝のクッションの役割をしている半月板が同時に傷つき、それが痛みの原因になっていることもあります。半月板の損傷は、治療方針や術後の痛みの出方にも関わるため、診察や手術の際に特に注意して確認すべき重要なポイントになります。
前十字靭帯断裂は、突然はっきりとした症状が出ることもあれば、時間をかけて少しずつ悪くなり「なんとなく歩き方がおかしい」程度にしか見えないこともあります。次のような変化が見られるときは、できるだけ早めに動物病院へご相談ください。
突然断裂した場合、次のような症状が目立ちます。
・後ろ足をかばって歩く(患側の足を浮かせる/ほとんど着けない)
・途中で座り込む、立ち上がりにくくなる
・膝を触ると痛がる、キャンと鳴く
・患側の足を上げたまま歩く
部分断裂や慢性化では「なんとなく調子が悪い」に近い形で現れることもあります。
・スキップ歩き(うさぎ跳びのように後ろ足がそろう)
・動きたがらない/遊びへの興味が減る
・階段や段差を嫌がる
・寝起きや長く座った後の歩き出しが悪い
前十字靭帯断裂を放置すると、痛みや関節炎が進むだけでなく、反対側の靭帯も切れるリスクが高まることがあります。片側の膝が不安定になると、どうしてももう片方の足に負担が集中しやすくなるためです。結果として、数か月〜1年ほどの間に反対側も断裂してしまうケースも珍しくありません。
両側が断裂すると歩行はさらに困難になり、生活の質(QOL)が大きく下がってしまいます。症状がいったん落ち着いたように見えても、膝のぐらつきは自然に元に戻ることが少ないため、気になる症状があるときは早めに動物病院で状態を確認することが大切です。
診断では、まず触診で膝の不安定性を確認します。ここで前十字靭帯断裂が疑わしいか、他の病気の可能性があるかをある程度見立てます。
次にレントゲン検査を行い、骨の形の変化、関節内の炎症、関節炎の進行、骨折などがないかを確認します。さらに、どのような治療を選ぶかを考える際には、体重・年齢・ふだんの活動量・症状の強さ・生活環境などを総合的に評価することが大切です。
一般的には、中型犬以上や活動量の多い犬では、膝を長期的に安定させるために手術が選ばれることが多く、一方で小型犬や高齢犬では、状態によっては保存療法(手術を行わずに管理する方法)を検討する場合もあります。
ただし保存療法では、痛みが再発したり、関節炎が進行したりしやすい点が課題となることがあります。そのため「手術をしない」という選択が本当にその子のQOL(生活の質)を長く守れるかどうか、飼い主様と獣医師とでよく話し合いながら決めていきます。
前十字靭帯断裂の治療は大きく分けて「保存療法」と「手術療法」があります。保存療法は、体重管理や運動制限、痛みの管理、筋力低下を防ぐ工夫などを組み合わせて、生活の負担を抑えます。一方で、膝の不安定さそのものを改善する目的では、手術療法が中心になります。
手術の代表的な選択肢が、TPLOとラテラルスーチャー法(関節外制動術)です。
TPLOは、骨の形(角度)を調整して、前十字靭帯がなくても膝が安定しやすい構造に変える手術です。切れた靭帯そのものを“つなぎ直す”のではなく、歩くときに膝が前にズレようとする力が起きにくい形に近づけることで、膝関節を安定させます。
体重のある犬でもしっかりとした安定が得られやすい一方で、骨を切ってプレートなどで固定する手術となるため、高度な専門的技術が必要です。また、金属プレートなどのインプラントを使用する分、費用は高くなる傾向があります。
ラテラルスーチャー法は、人工靭帯として特殊な糸を用い、膝の外側から関節を支えることでぐらつきを抑える手術です。膝の中の前十字靭帯の代わりに、外側から“支え”をつくるイメージです。
小型犬では十分な安定が得られやすく、手術時間が比較的短いことや、TPLOと比べて費用を抑えやすい点がメリットです。
一方で、体重が重い犬や、日常的によく動き回る犬では糸にかかる負担が大きく、時間の経過とともに糸がゆるんだり切れたりして、長期的な安定性が低下してくる可能性があります。
◆ どちらを選ぶといい?
手術法は「この方法が絶対に正解」というよりも、その子の体格・年齢・活動レベル・膝の状態・生活環境・ご希望(費用や通院頻度など)を総合して選びます。
一般的には、中〜大型犬や活動的な犬ではTPLOが選択されやすく、小型犬や高齢犬ではラテラルスーチャー法が選択肢になりやすい傾向があります。ただし実際には、膝の角度や半月板の状態、痛みの強さ、普段の暮らし方によって最適解が変わります。診察で得られる情報をもとに、メリット・デメリットを整理しながら一緒に方針を決めていきましょう。
手術では麻酔をかけるため、手術前に血液検査などを行い、体の状態を確認します。年齢や持病によっては追加の検査が必要になることもありますが、安全に進めるために大切な準備です。
「高齢だから無理かも」と感じる場合でも、状態を評価したうえで選べる道が見つかることもありますので、まずはご相談ください。
手術の結果を良いものにするためには、術後の過ごし方がとても重要です。
手術後は通常、数日〜1週間程度の入院が必要になることがあります(術式や状態により前後します)。入院中は痛みのコントロールや傷口の管理を行い、退院後は一定期間、安静を守っていただきます。特に術後しばらくは、走る・ジャンプする・急な方向転換が大きな負担になります。階段やソファの昇り降りも、できるだけ控えるほうが安心です。
安静期間が過ぎたら、状態を確認しながら散歩を段階的に再開します。筋力が落ちすぎると回復が遅れやすいため、無理のない範囲でリハビリを取り入れていきます。
どの手術にも一定のリスクはあり、前十字靭帯断裂の手術も例外ではありません。たとえば、術後の感染、TPLOでは骨癒合不全やインプラント関連のトラブル、ラテラルスーチャー法では糸の緩みや断裂による再不安定などが挙げられます。
ただし、これらは「必ず起こる」ものではありません。多くは早めに気づいて対応できれば大事になりにくいこともあります。
手術後は定期的に状態を確認しながら進めていきますので、不安なことは遠慮なくご相談ください。
また、合併症予防の観点でも特に大切なのが体重管理です。肥満は膝への負担を増やし、関節炎や再トラブルのリスクを高めるため、治療と並行して無理のない範囲で体重を整えていきましょう。
犬の前十字靭帯断裂は、膝を支える靭帯が切れてしまい、痛みやびっこにつながる病気です。膝がぐらついたまま歩き続けると、関節に負担がかかり、関節炎(関節がすり減る状態)が進みやすくなります。さらに、痛い足をかばって生活する期間が長いほど、反対側の足にも負担が集まり、もう片方の膝を傷めてしまうこともあります。
そのため、治療は「今の痛みを抑える」だけでなく、「これから先も歩きやすい状態を保つ」ことを目標に考えることが大切です。
「後ろ足をかばっている」「急に歩けなくなった」「スキップ歩きをしている」など気になるサインがあるときは、できるだけ早めに動物病院へご相談ください。
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